
標的型攻撃の近年の傾向とは?SaaS・ID・サプライチェーン・AIをめぐる手口と対策
標的型攻撃は、特定の企業・組織などを狙い、主に機密情報の窃取を目的として行われるサイバー攻撃です。攻撃の過程では、認証情報が狙われる場合もあります。近年は、偽装メールだけでなく、SaaSや正規の認証・認可機能、委託先やソフトウェア、AIを悪用する手口も見られます。
こうした攻撃では、メールや端末だけでなく、IDやクラウド、取引先との接続なども侵入経路になり得ます。そのため、複数の領域をまたいで監視・管理するとともに、従業員が不審な要求に気づき、操作を止めて報告できる体制を整えることもポイントです。
本記事では、標的型攻撃の近年の傾向を整理し、企業が見直したい技術・運用面の対策と従業員教育について解説します。
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標的型攻撃を取り巻く4つの傾向
近年の標的型攻撃では、偽装メールだけでなく、SaaSの認証機能や取引先、ソフトウェアなど、普段の業務で利用している仕組みや関係性を悪用する手口も見られます。また、AIが攻撃準備や一部の攻撃工程に利用されるなど、手口も変化しています。
①業務に合わせた自然な内容で操作を促す
取引先や社内担当者、経営層などを装い、請求書や契約書、共有ファイル、会議招待など、業務上自然に見える内容で操作を促す手口があります。
実在する相手の名前や乗っ取ったアカウント、正規サービスへのリンクなどが利用される場合もあり、差出人やメールの見た目だけでは判断しにくいケースがあります。
②SaaSや正規の認証・認可機能が悪用される
SaaSでは、IDやパスワードだけでなく、ログイン状態を維持するセッション情報や、外部アプリとの連携時に付与する権限などが悪用される場合があります。
認証情報やセッション情報を窃取して正規ユーザーになりすましたり、不正なアプリ連携を通じてクラウド上の情報へアクセスしたりする手口にも注意が必要です。
③サプライチェーンを経由した侵入が続いている
標的となる企業を直接狙うのではなく、委託先やITベンダーなどを侵害し、そのアカウントや接続経路を利用して侵入する攻撃があります。
また、ソフトウェアの開発・更新プロセスや外部のソフトウェア部品などを介して、利用企業へ影響が広がる場合もあります。自社だけでなく、業務上つながりのある組織やサービスが攻撃経路になり得る点が特徴です。
④AIが偵察や攻撃準備に利用される
AIを利用すると、企業サイトやSNSなどの公開情報の整理や、標的の部署・役職・業務内容に合わせた文章の作成を効率化できます。文章の修正や多言語化にも利用できるため、標的に合わせた攻撃の準備に悪用される可能性があります。
さらに、脆弱性の調査や攻撃コードの作成支援など、文章生成以外の用途にもAIが利用され始めています。AIエージェントによって攻撃工程の一部を自動化する動きも確認されており、サイバー攻撃におけるAIの利用範囲は広がっています。
なぜ現在の標的型攻撃は従来の対策だけでは防ぎにくい?
現在の標的型攻撃では、正規サービスや認証情報、取引先との関係など、普段の業務で利用している仕組みや信頼関係が攻撃に利用される場合があります。
そのため、「怪しいメールを開かない」「不審なサイトへアクセスしない」といった従来の注意だけでは、攻撃を見分けにくくなっています。
正規サービスを経由するため見分けにくい
標的型攻撃では、正規のクラウドサービスや認証画面、乗っ取られたメールアカウントなどが利用される場合があります。
見た目やURLが正規のものであっても、その先で認証情報の入力やアプリへの権限付与を求められるなど、不正な操作へ誘導される可能性があります。そのため、「知らないサイトや相手だけを警戒する」といった見分け方では、異変に気づきにくい点が課題です。
端末だけでなくIDや認証情報も狙われる
SaaSやクラウドサービスの利用が広がるなか、IDはメールやクラウドストレージなど複数の情報資産へアクセスする入口になっています。
パスワードだけでなく、認証に使われる情報やログイン状態を維持するセッション情報などが悪用されると、端末そのものが侵害されていなくても、正規ユーザーを装ってクラウド上の情報へアクセスされる可能性があります。
そのため、端末上の不審なファイルや動作だけを監視していても、攻撃の兆候を捉えにくい場合があります。
取引先や委託先との「信頼」が判断を難しくする
実在する取引先からのメールや、委託先の正規アカウント、ソフトウェア更新など、普段から利用している相手や仕組みが攻撃経路になる場合があります。
送信元やサービス自体が正規のものであると、利用者は警戒しにくく、普段と異なる依頼や認証要求であっても、そのまま操作してしまう可能性があります。
このように、現在の標的型攻撃では「正規か不正か」を見た目だけで判断しにくくなっているため、技術面と従業員教育の両方から対策を考える必要があります。
標的型攻撃の傾向を踏まえて企業が見直したい対策
現在の標的型攻撃では、メールや端末だけでなく、IDやSaaS、取引先との接続なども攻撃経路になり得ます。そのため、一つの製品や対策だけに頼らず、複数の領域を横断して監視・管理することがポイントです。
メール・端末・ID・クラウドを横断して監視する
メールセキュリティに加え、EDR/XDR(※1)やSIEM(※2)などを活用し、SaaS・クラウドやID・認証に関するログも確認します。不審なログインや権限変更、端末上の異常な挙動などを個別に見るのではなく、複数の情報を関連付けて確認できる状態を整えます。
例えば、標的型メールを受信したあとに通常とは異なる認証が発生し、その直後にクラウド上のデータへ大量のアクセスが行われている場合、それぞれを個別の事象ではなく、一連の攻撃として捉える必要があります。
メールの受信から認証、クラウドへのアクセスまで、複数の領域にまたがる動きを確認する視点が求められます。
※1・・・EDR(Endpoint Detection and Response)は端末上の不審な挙動を検知・対応する仕組み、XDR(Extended Detection and Response)は端末やネットワークなど複数の領域から情報を収集・分析して脅威の検知・対応を支援する仕組みのこと。
※2・・・SIEM(Security Information and Event Management)は、システムやネットワークなどのログを収集・分析し、セキュリティ上の異常を検知する仕組みのこと。
認証とSaaSの権限を適切に管理する
多要素認証(MFA)を導入するとともに、不要なアカウントや権限を削除します。外部アプリとの連携やSaaS上のアクセス権限も必要な範囲にとどめ、どのアプリがどのデータへアクセスできるのかを定期的に確認します。
また、不審なログインやセッション、通常とは異なる認証の発生にも注意が必要です。多要素認証を導入するだけでなく、認証の状況やアプリに付与している権限まで含めて管理します。
委託先・サプライチェーンのリスクを管理する
どの委託先が自社環境へアクセスできるのかを把握し、付与する権限は必要な範囲にとどめます。契約終了や担当者の変更があった場合は、不要になったアカウントや接続経路、権限を速やかに停止します。
併せて、委託先のセキュリティ対策状況や、自社が利用しているSaaS・ソフトウェアに関わる第三者との接続状況も定期的に確認します。
委託先でインシデントが発生した場合に備え、連絡先や自社環境への接続を停止する手順なども事前に整理しておくと、初動対応につなげやすくなります。
出典:独立行政法人 情報処理推進機構『情報セキュリティ 10大脅威2026 解説書[組織編]』
標的型攻撃への従業員教育は「見抜く」から「行動できる」へ変える
標的型攻撃が巧妙化するなかでは、「怪しいメールを見抜く」だけの教育では対応しにくくなっています。不審な要求に気づき、操作を止め、適切な窓口へ報告するところまで行動できるよう、教育内容を見直すことがポイントです。
メールの見た目だけで判断させない
「日本語が不自然」「知らない差出人」「怪しいURL」といった特徴だけで不審なメールを判断することには限界があります。AIによって自然な文面を作成したり、正規サービスや実在する取引先を装ったりする手口もあるためです。
そのため、「なぜこのファイルを開かせようとしているのか」「なぜ今ログインやアプリへの権限付与を求めているのか」「なぜ突然MFAの承認要求が届いたのか」など、何をさせようとしているのかに目を向ける習慣を身につけます。
取引先や正規サービスでも一度立ち止まる
知っている取引先や正規サービスからの案内であっても、普段と異なる依頼や突然の認証・権限付与要求があれば、一度操作を止めます。必要に応じて、電話や社内チャットなど別の手段で本人や担当者へ確認します。
また、不審なMFAの承認要求に応じたり、誤ってリンクを開いたりした場合は、被害が確認されるまで待たずに報告できるルールを整えておきます。「違和感を覚えた段階」で相談できる環境を整えることで、早期対応につなげやすくなります。
疑似体験で「気づく・止まる・報告する」を練習する
攻撃手口が変化するなかでは、最新事例や特徴を覚えるだけでなく、実務に近い状況で判断や行動を練習する方法もあります。
標的型メールやフィッシング、マルウェア感染などを疑似体験することで、不審な状況に直面した際にどのように判断し、行動すればよいかを確認できます。
『セキュアプラクティス®』では、ブラウザ上で実際の業務に即したサイバーインシデントを疑似体験できるシナリオを用意しています。標的型攻撃メール訓練と組み合わせることで、「気づく・止まる・報告する」までを一連の行動として身につける教育につなげられます。管理者側では履修状況も確認できます。
まとめ|標的型攻撃の変化に合わせて技術と人的対策を見直す
標的型攻撃では、偽装メールだけでなく、SaaSやID、取引先との接続など、普段の業務で利用している仕組みや関係性が攻撃経路になる場合があります。さらに、AIが偵察や攻撃準備に利用されるなど、手口も変化しています。
こうした攻撃に備えるには、「怪しいメールやサイトを避ける」だけでなく、複数の領域をまたいで異常を捉え、認証や権限、委託先との接続まで含めて管理する視点が必要です。
併せて、従業員が見た目だけで安全性を判断せず、不審な要求に気づいた段階で操作を止め、報告できる体制を整えることもポイントです。『セキュアプラクティス®』では、実際の業務に近いサイバーインシデントを疑似体験し、「気づく・止まる・報告する」という行動を実践的に学べます。



